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鹿児島地方裁判所 昭和46年(行ウ)2号 判決

原告 西岡久鞆 外一名

被告 鹿児島開発事業団理事長 外四名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告ら)

(一)  被告鹿児島開発事業団理事長が、被告昭和製菓株式会社、同照国郵船株式会社保全管理人(旧商号鹿児島郵船株式会社)、同株式会社郵船タクシー(旧商号西日本郵船株式会社)、同鹿児島日産モーター株式会社に対し、別紙(一)分譲目録記載の土地の返還請求を怠つている事実が違法であることを確認する。

(二)  被告昭和製菓株式会社、同照国郵船株式会社保全管理人、同株式会社郵船タクシー、同鹿児島日産モーター株式会社は訴外鹿児島開発事業団に対し、別紙(一)分譲目録記載の土地を引渡せ。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決

(被告ら)

一  本案前の抗弁として、

原告らの訴をいずれも却下する。

との判決

二  本案につき

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

(原告らの請求原因)

一  原告らは鹿児島市の住民である。

二  訴外鹿児島開発事業団(以下単に「事業団」という)は、地方自治法第二九八条第一項の規定により、鹿児島県と鹿児島市が共同して設置した事業団であり、被告鹿児島開発事業団理事長(以下単に「被告事業団理事長」という)は右事業団を代表しその事務を総理する者である。

三  事業団は昭和四三年および同四四年度造成宅地(通称城山団地)を昭和四三年以降数次にわたつて分譲してきているが、その分譲の申込資格者を次のように定めた。

(一) 現在鹿児島市内に宅地を所有せず、自分の住居を建設するための宅地を必要とする者で同居家族(婚約者を含む)があること。

(二) 現在市外に住んでいるが、右団地に自分の住宅を建てて居住する希望の者で市内に宅地を持つていない者。

(三) 宅地の引渡しを受けて二年以内に自分の住宅を建設する者。

(四) 申込は一世帯一筆にかぎる。

四(一)  しかしながら、実際の分譲に当つては右の申込資格を欠く被告昭和製菓株式会社(以下単に「被告昭和製菓」という)、同照国郵船株式会社保全管理人(以下単に「被告照国郵船」という)、同株式会社郵船タクシー(以下単に「被告郵船タクシー」という)、同鹿児島日産モーター株式会社(以下単に「被告鹿児島日産モーター」という)の各法人に対し、別紙(一)分譲目録記載の造成地(以下単に「本件土地」という)をいずれも昭和四三年二月二九日にそれぞれ譲渡した外被告昭和製菓に対しては鹿児島市草牟田町三八〇三番七(宅地八二五・三〇平方メートル)を、同照国郵船に対しては同所三八〇三番一一(宅地四一〇・九五平方メートル)の各土地を譲渡しているが、これらの譲渡はいずれも法規範たる分譲申込資格要件に違反して違法であり、私法上も無効である。

(二)  しかも、事業団は特別地方公共団体の一種であり、設置者たる普通地方公共団体の事務に属するものを総合的に実施するため設置されたものであるから、憲法、地方自治法に則つてその事業を執行する必要があるところ、事業団の右のような分譲の方法は特定の法人のみを他の者と差別して優遇するもので、住民の法的平等を保障した憲法第一四条および地方自治体における民主的行政確保を要請する憲法第九二条、地方自治法第一〇条に反するものであるから、右被告らへの各分譲はいずれも違法であり、公序良俗(民法第九〇条)に反して私法上無効である。

五  したがつて、本件土地は事業団の所有であつて、本来その管理下におかれるべきであるにもかかわらず、事業団がその返還請求を行わないのは違法に財産管理を怠る事実に該当する。

六  そこで、原告らは鹿児島市に居住する住民として右の事業団の違法な契約締結による財産処分を是正するため、昭和四六年七月二八日、事業団監事に対し監査請求をなしたところ、同監事は同年九月二三日被告事業団理事長に対し別紙(二)記載のとおりの監査結果に基づく措置勧告をなし、原告らは同月二四日その旨の通知を受けた。

七  しかし、原告らは前掲記の措置勧告に不服があるので、本件土地の譲渡について、被告事業団理事長が、被告昭和製菓、同照国郵船、同郵船タクシー、同鹿児島日産モーターに対し、代金返還と引換えに本件土地の返還請求を怠る事実の違法確認および事業団に代位して、右被告四名に対し本件土地の返還を求める。

(被告らの本案前の抗弁)

本件訴は、監査請求の対象となつていない「怠る事実」を訴訟においてあらたに請求するものであるから、不適法である。

(一)  すなわち、地方自治法第二四二条の二の規定によれば、同条の規定による住民訴訟は、同法第二四二条に規定する監査請求の手続を経ることをその前提要件としている。そして、右第二四二条の規定によれば、右監査請求の対象となるものは、普通地方公共団体の長もしくは委員または職員の違法もしくは不当な(イ)公金の支出、(ロ)財産の取得、管理もしくは処分、(ハ)契約の締結もしくは履行および(ニ)債務その他の義務の負担の四種類の行為と、違法もしくは不当に(ホ)公金の賦課もしくは徴収を怠る事実および(ヘ)財産の管理を怠る事実の二種類の不作為であり、住民訴訟の対象となるものは、右の監査請求をした財務会計上の違法な行為又は怠る事実に限られ、監査請求の対象としていなかつた行為又は怠る事実を訴訟においてあらたに請求することは、監査前置の立前からできないものと定められている。

(二)  ところで、原告らは本訴提起に先立ち、昭和四六年七月二七日事業団監事に対し監査請求をしているが、右監査請求は、事業団の本件土地の処分、売買契約締結が違法であると主張して、その是正を求めたものであるから、それが右(ロ)、(ハ)の「財産の処分」、「契約の締結」に該当することは明らかである。したがつて、もし右監査の結果に不服ならば、監査請求をした右事業団の違法な財産の処分、契約の締結について訴訟を提起することはできる。

(三)  しかし、原告らは本件訴において、右(ヘ)の「財産の管理を怠る事実」に該当する「本件土地の返還請求を怠つている事実」の違法確認と、これを前提とする原状回復の請求をしているのであつて、明らかに監査請求の対象としていなかつた「怠る事実」を訴訟においてあらたに請求するものであるから、本件訴は、不適法で訴の却下を免れないものである。

(請求原因に対する被告らの答弁)

一  請求原因一、二、三の各事実は認める。

二  同四の(一)の事実のうち、本件土地を昭和四三年二月二九日に被告昭和製菓、同照国郵船、同郵船タクシー、同鹿児島日産モーターにそれぞれ譲渡したことは認め、その余の事実は否認する。四の(二)の事実のうち、事業団が特別地方公共団体の一種で、普通地方公共団体の事務に属するものを総合的に実施するために設置されたもので、憲法、地方自治法に則つて事業の執行をするものであることは認め、その余の原告らの主張は否認する。

三  同五の事実は否認する。

四  同六の事実は認める。

(被告鹿児島日産モーターを除く被告らの主張)

一  本件土地の譲渡(売買契約)は有効であつて、何ら憲法第一四条、第九二条、民法第九〇条に違反するものではない。

(一) 分譲申込資格は個人に限らず、法人にもある。

すなわち、事業団の事業計画は、「宅地、工業用地およびその他の用地の取得、造成および処分並びにこれとあわせて整備すべき施設等の整備事業」と定められ、そのうち宅地の造成および処分は、住宅を建設するための宅地を必要とする市民に住居の敷地たる宅地を供給して、その需要に応じ、もつて住宅難の解消に寄与することを目的とするにあり、その目的の実現を計るため、一般市民(個人)を主たる対象として分譲を行なつているが、その対象は個人のみに限定されているのではなくして、同じく住宅を必要とする市民の住居の供給に役立つ市営住宅、公務員住宅、学校寄宿舎、会社、商店の従業員宿舎等の建設を目的とする用地についても、分譲されているものである。

ところで、本件城山団地の第一次分譲に当り配付した宅地分譲案内書には、一応個人を対象として申込者の資格等をうたつているが、事業団としては、既に昭和四〇年一一月末、大明ケ丘団地の分譲に際し、鹿児島市北部地区をはじめ三地区(本件城山団地を含む)を選定して宅地造成事業をしており、その第一次分として社宅、職員宿舎等建設用地の分譲をする旨の案内書を、各会社、商店および鹿児島商工会議所等経済諸団体に送付して広報しており、右方針はその後の宅地分譲についても踏襲されているのである。ただ本件土地の一画は、市街地に面して突出した傾斜地で、その段落の高低が甚しく、技術的に細分化が困難で、比較的広面積の区画となつたため、その地積と価額の面からむしろ法人向きであつたので、これらの一画については法人も対象とすることが考慮されていたものの、これまでの分譲では法人からの申込みが比較的少なかつたことと右の一画の筆数が少なかつたことなどから、本件分譲案内書には法人をも対象とする旨をうたわなかつたものである。しかも本件法人への分譲は事業団の常務理事において協議し、被告事業団理事長の承認を得て分譲を決定したもので、申込みの受付けも法人の他個人も等しく受付けて抽せんにより公正に当選者を決めたものである。

(二) 本件土地の分譲は、特定の法人のみを他の者と差別して優遇したものではない。

すなわち、本件分譲に際しては前記理由により改めて法人への分譲を公告しなかつたが、既に大明ケ丘団地の分譲の際に公告しており、かつ本件分譲後に他の法人からの苦情申出もないこと等から考えて、本件土地の分譲が特定の法人のみを他の者と差別して優遇したものとはいえないというべきである。

(三) 本件土地の分譲は分譲申込資格要件に違反しない。

すなわち、事業団が申込者の資格として「市内に宅地を所有せず、自分の住居を建設するための宅地を必要とする者」と定めたのは、自分の住居を建設するための宅地を所有せず、これを必要とする者に宅地を供給するにあるから、「市内に宅地を所有せず」との文言の趣旨は、自分の住居を建設するための宅地を所有していないことである。したがつて、市内に宅地を所有していても、これを他人に賃貸している場合や既に他の用途に供する建物が建築されていて、その土地に住居を建設することができない場合等は、申込の資格を認めているのである。

本件土地の分譲を受けた被告らは市内に宅地を所有しているが、いずれもその宅地は、工場、倉庫、事務所等の用途の敷地として使用され、社宅、従業員宿舎等の住居を建設する余裕地はないものと認められるのであつて、宅地分譲の右要件に違反するものではない。

(四) その他原告らの主張事由(地方自治法第一〇条違反等)は、いずれもその事由が認められず、本件分譲を無効とするものではない。

二  事業団において財産の管理を怠る事実はない。

すなわち、事業団は、前記のとおり、本件土地を被告事業団理事長を除く被告らにそれぞれ有効に売り渡し、その所有権は同売買契約書第五条により本件土地の地番設定当時にそれぞれ右被告らに移転し、かつ所有権移転登記を経由しており、もはや事業団の所有には属さない。したがつて、事業団においてその財産の管理を怠る事実の存在するいわれはないものというべく、原告らの本訴請求は理由がない。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  本案前の抗弁について

住民訴訟が適法に提起されるためには、地方自治法第二四二条第一項に規定されている如く、訴訟の対象が監査請求で対象とされた違法な行為又は怠る事実でなければならないか、成立に争いのない乙第三号証の二によると、原告らは、事業団がなした本件城山団地の宅地分譲(売買)の中に、事業団が自ら提示した分譲申込者資格並びに申込手続の要件に違反して、違法又は不当に会社ないし個人に売買されたと思われるものがあること、したがつて、これらを事業団が放置していることは許されない、として措置請求をしたことが認められ、右措置請求の趣旨に鑑みれば、原告らが、事業団の財産たる造成宅地の売買が違法又は不当であることに加えて、無効な売買契約によつて引渡された造成宅地の返還請求を怠つていることをも監査請求の対象としているものと解することができる。

しかして、原告らは本件訴訟において、右監査請求で対象とした「本件土地の返還請求を怠つている事実」の違法確認と、これを前提とする右土地の返還請求をしているのであつて、監査請求において対象としていなかつた違法な怠る事実を本件訴訟においてあらたに請求するものではないので、原告らの本件訴訟は適法であり、被告らの本案前の抗弁は理由がない。

(なお付言するに、地方自治法第二四二条第二項の規定によると、違法又は不当な行為にかかる監査請求については、正当な理由がない限り、当該行為のあつた日又は終つた日から一年以内にしなければならないが、違法又は不当な怠る事実については、右の請求期間の制限を受けないものとされている。そこで本件原告らの監査請求は、事業団が被告事業団理事長を除く被告会社ら(以下単に「被告会社ら」という)との間で本件土地の売買契約をした昭和四三年二月二九日から一年以上経過した昭和四六年七月二八日になされている(この点は当事者間に争いがない)が、右監査請求では前記認定のとおり、違法又は不当な造成宅地の処分、売買契約の締結の他に「違法又は不当に財産の管理を怠る事実」も合わせてその対象とし、この点について本件訴訟を提起しており、かつ右の「怠る事実」については監査請求の期間制限を受けないのであるから、一年以上経過してなされた本件監査請求は、少くとも右の限度においては適法になされているということができ、したがつて、この点からも本件訴訟は適法なものということができる。)

二  本案についての判断

(一)  請求原因一、二、三の各事実および同四の(一)の事実のうち事業団が本件土地を昭和四三年二月二九日に被告会社らにそれぞれ譲渡(売買)したこと、四の(二)の事実のうち、事業団が特別地方公共団体の一種で、普通地方公共団体の事務に属するものを総合的に実施するために設置されたもので、憲法、地方自治法に則つて事業の執行をするものであることは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、事業団と被告会社らとの間になされた本件土地の売買契約(以下単に「本件売買契約」という)の効力について検討する。

前掲記当事者間に争いのない事実および前掲記乙第三号証の二、成立に争いのない甲第一ないし第六号証、第七号証の一ないし七、同号証の九、一〇、第八号証の一ないし二九、同号証の三一ないし三六、証人増田良次の証言(第一、二回)および同証言によつて真正に成立したものと認める乙第一号証、第二号証の一、二、第五号証の一、二、第一二号証の一、二、第一三号証、第一五号証の一、第一六号証の一、第一七号証の一、第一八号証の一、証人田中保彦の証言および同証言によつて真正に成立したものと認める乙第七号証、被告昭和製菓代表者本人尋問の結果および同代表者本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認める乙第六号証、被告郵船タクシー代表者本人尋問の結果および同代表者本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認める乙第八号証、被告鹿児島日産モーター代表者本人尋問および同代表者本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認める乙第九号証、証人内野徳明、同鎌倉俊夫、同下小園義丸の各証言(但し証人増田良次(第一回)、同内野徳明、同鎌倉俊夫の各証言のうち後記措信しない部分を除く)、原告西岡久鞆本人尋問の結果(但し後記措信しない部分を除く)、を総合すると、次の事実が認められる。

1  事業団は、市民の住宅難の解消に寄与するため、鹿児島市から委託された事業計画に基づき、鹿児島市近効の中部、西部、北部などの各地区を選定して宅地造成(団地)を計画し、北部地区の大明ケ丘団地に続いて中部地区の本件城山団地の造成をなし、昭和四三年二月の第一次分譲から昭和四六年八月までの間に合計八回にわたつて分譲してきたこと

2  事業団が宅地分譲を実施する際の手続、方法は、先ず事業団理事会において、分譲の対象となる造成地の所在地とその面積を明らかにして処分するとの議決をなし、次いで、各分譲毎に事業団理事長は常務理事の承認を受けて分譲の条件、申込者の資格、購入者の決定方法、売買の方法・価額・時期、代金の支払方法等の一般的な基準を定め、分譲予定地と右分譲についての一般的基準を記載した宅地分譲案内書(甲第一ないし第六号証)の頒布および新聞への掲載などによつて造成宅地の購入希望者を公募する手続、方法がとられている(本件城山団地の第一次分譲(昭和四三年二月一四日から申込受付)に当つても、同月九日の事業団理事会において、昭和四二年度処分の当該造成宅地(六四、四〇〇平方メートル)を処分することを議決したうえ、所定の手続で公募された。)。そして、申込資格を有する者として本件城山団地の分譲の際作成された宅地分譲案内書には、個人を念頭に「現在市内に宅地を所有せず、自分の住居を建設するための宅地を必要とする者」ないし「現在市外に住んでいるが、当団地に自分の住宅を建てて居住する希望の者で、市内に宅地を持つていない者」などと明記されていたが、法人については、前記大明ケ丘団地を分譲した際、法人からの申込が極めて少なかつたことから、本件団地の分譲に当つては特に法人の社宅、従業員宿舎、専用用地を確保して分譲することを当初計画から外したため、法人に申込資格がある旨の明示はされていなかつたものであること

3  ところが本件城山団地の第一次分譲においては、被告会社らを含む法人六社からの分譲申込希望があつたため、事業団としては常任理事において協議し、被告事業団理事長の決裁を得て、従業員宿舎を建設することを条件に法人への分譲を認めることにし、右法人六社の申込みを受付けたが、分譲区画については、主として他の区画に比較して比較的広い区画の多い本件城山団地の西側部分に当る本件土地を含む一画を当てることにして、個人および法人双方の申込を受付けたこと

4  その結果、四八号地については被告昭和製菓(昭和四三年二月二〇日付)、五一号地については被告郵船タクシー(当時は西日本郵船、同月一五日付)のみが申込み、個人からの申込みはなかつたが、五〇号地については個人五名と被告照国郵船(当時は鹿児島郵船、同月一五日付)の他一社から、五三号地については個人二名と被告鹿児島日産モーター(同月二〇日付)の他一社からそれぞれ申込みがあり、選考ないし抽せんの結果被告会社らが当選したものであるが、資格審査の結果、被告郵船タクシー(被告照国郵船と本店が同一建物内にあつたが、全く別個の法人で、鹿児島市草牟田町三八〇三番一一(宅地、現在四一〇・九五平方メートル)は被告郵船タクシーが譲受けた五一号地に当る。)を除く被告会社らは、その当時鹿児島市内に宅地を所有してはいたが、その大半は工場、倉庫、事務所等の用途の敷地として使用されていて、いずれも社宅、従業員宿舎の建設の必要を迫まられながらも、それらを建設すべき余裕地がなかつたことから、事業団は被告会社らにいずれも申込資格ありと認めて売買契約を締結したこと(なお、被告昭和製菓の代表者である有村常憲は、その後、同被告会社が事業団から買受けた右四八号地に隣接する四七号地鹿児島市草牟田町三八〇三番七(宅地八二五・三〇平方メートル)を、昭和四四年八月三〇日付で訴外山下弘(同人は昭和四三年三月五日事業団から買受けた)から有村須美、有村貞輝と三名の共有名義(持分各三分の一)で買受けているが、これは事業団から直接分譲を受けたものではないから「一世帯一筆に限る」とする分譲の条件には何ら抵触するものではない。)

5  他方事業団においては、同事業団の第一回目の分譲(大明ケ丘団地)を開始する際、今後の分譲をも含めてその常任理事会で、事業団が造成する宅地の分譲対象者は、個人に限定せず、社宅、従業員宿舎等の建設を希望する法人には分譲するとの一般的な方針を決め、とりわけ事業団として最初の分譲をした前記大明ケ丘団地については、宅地造成計画の当初から右の用途に当てる専用地を確保していたので、同団地の第一次分譲に際して、その旨を公告すると共に、今後事業団が予定している他の造成宅地についても、同様の用途で必要とする法人に対しては分譲してゆく趣旨を記載した案内書(乙第五号証の二)を、従業員五〇名以上を雇用している同市内の約一三〇の企業主に宛てて送付する他、商工会議所、経済同友会、経営者協会、中小企業団体中央会に対し、その会員や所属員に右趣旨を周知徹底させて貰うべく依頼したこと

6  また事業団としては、前記宅地分譲案内書に明示した申込資格に欠ける者が申込みをした場合でも、常任理事と協議し、被告事業団理事長の決裁を得て住宅建設の緊急性の度合が高い者については申込資格を認める等の運用をなし、申込資格のうち「市内に宅地をもつていない者」については、現実に市内に宅地を持つていても、それを他人に賃貸したり、店舗等に使用しているため住宅建設ができない事情にある場合は、「土地をもつていない者」に準じて申込資格を認め、法人については、社宅、従業員宿舎を建設することが主たる資格要件であつたが、市内に宅地を持つている場合は、右個人の場合に準じた取扱いがなされていたこと

以上の事実が認められ、右認定に反する証人増田良次(第一回)、同内野徳明、同鎌倉俊夫の各証言、原告西岡久鞆本人尋問の結果は前掲記各証拠に照らしてたやすく措信できず、他に認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  ところで、前記認定のような手続、方法で契約の相手方となるべき者(法人を含む)を選定して締結する契約締結の方法は、地方自治法第二三四条に規定する契約方式のうちの随意契約の一態様とみるべきであるが(同法第三一四条第一項、同法施行令第一六七条の二第一項)、この随意契約の方式は、競争入札による契約の場合のように参加者の資格制限等を公告することも義務づけられていないから(地方自治法施行令第一六七条の四、六、事業団契約規則第二二、二四条参照)、事業団がたとえ申込資格などの要件を定めて公告するなどの手続を経て契約を締結する方法をとつたとしても、そのことによつて随意契約の本質が変容を来たすことはないというべく、事業団の定める右のような申込資格要件自体は、事業団が公的機関として造成宅地の分譲業務に関し公正を期するために一般的、概括的な基準を示したもので、右一般的基準の認定および公告によつて事業団の権限の行使が法的制約を受け、同基準に反する宅地の分譲が違法となるものではないと解されるから、事業団理事長は具体的事情に応じて弾力的に運用することができるというべきである。したがつて、この違背をもつて直ちに当該売買契約の私法上の効力が否定されることはないといわなければならない。

また、前記認定の本件売買契約締結の経過、事業団における宅地分譲の手続・方法、法人に対する分譲方針などからして、本件売買契約は、いずれも特定の法人を優遇するのでもなく、個人の場合と同一の条件と手続、方法で締結されており、事業団が被告昭和製菓、同照国郵船、同郵船タクシーに直接分譲(売買)したのは、いずれも各一筆であるから、「一世帯一筆」との要件にも違反していないのであつて、たとえ事業団が本件宅地分譲に関する公告をするに際して申込資格要件の運用基準を明示しなかつたとしても、その一事をもつて直ちに原告ら主張のように本件売買契約が憲法、地方自治法並びに民法第九〇条に違反し無効とは言い難く、原告らの請求原因四の(一)、(二)の各主張はいずれも採用するに由ない。

そうだとすれば、本件売買契約の無効を前提とする原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないものといわなければならない。

三  以上のとおりであるから、原告らの被告らに対する本訴請求は、いずれも理由がないものとして棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大西浅雄 湯地紘一郎 谷合克行)

別紙〈省略〉

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